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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1169号 判決 1964年5月27日

原告

芝信用金庫

当事者参加人

城南信用金庫

理由

一、第一審原告並びに参加人(以下「第一審原告等」という。)の第一審被告山本解寿同梁万基に対する請求について。

第一審被告山本解寿が訴外高柳道生と共同して昭和三一年三月二一日本件建物につき競落許可決定をうけ競落代金を納付し同年四月二日競落による所有権取得登記を経由したことは当事者間に争いがない。

第一審原告等は、右について、第一審原告と右訴外人及び第一審被告山本両名との間に右両名が本件建物を競落により取得した上その所有権を第一審原告に移転しかつその旨の所有権移転登記手続をなすべき旨の契約が成立したと主張し、第一審被告らはこれを争つている。そして、原審における第一審被告社団法人アメリカン、ソサエテー、オブ、ジヤパン代表者田栗敏男尋問の結果中には、第一審原告は本件建物を競落しようとしたが信用金庫たる第一審原告の名義で競落することは監督官庁に対する関係で具合が悪かつたので当時第一審原告外務員であつた高柳に対しこれを競落することを命じ、競落代金は高柳道生、斉藤昌三及び下田千代に対する貸出の名目で第一審原告から支出することとし、この命を受けた高柳が第一審被告山本と共同して本件建物を競落したものである旨の、当審証人川崎智徳の証言中には、第一審原告は本件建物の所有権を取得すべく競落代金を支出し高柳をして本件建物を競落せしめた旨の、同じく証人高柳道生の証言中には、本件建物は第一審原告名義で競落することは具合が悪いので高柳が第一審原告の代理人として同人名義で競落したものである旨の、いずれも第一審原告等に有利な供述部分が存在する。しかし他方、成立に争いない甲第一号証、同乙第七号証、当審における証人高柳道生の証言並びに原審における第一審被告社団法人アメリカン、ソサエテー、オブ、ジヤパン代表者田栗敏男尋問の結果によれば、本件建物の競落代金は第一審原告より支出されていたものであるが、第一審原告は右金員の回収を確保すべく、高柳との間に昭和三一年八月二〇日付をもつて金二〇〇万円の金円貸借契約を結び右債権を担保するため同日高柳より本件建物の同人の二分の一の持分につき抵当権設定を受け、同年一〇月二六日付で抵当権設定登記を了し、下田千代に対する手形貸付金四〇〇万円の債権については同年九月一〇日付で高柳より本件建物の同人の持分につき抵当権設定を受け同年一一月一九日付で抵当権設定登記を了し、斉藤昌三に対する手形貸付金三五〇万円の債権については同年八月一〇日付で高柳より本件建物の同人の持分につき抵当権設定を受け同年一一月一九日付で抵当権設定登記を了し且つそれぞれ同日付をもつて高柳との間に本件建物の同人の持分につき停止条件付代物弁済契約を締結し持分に対する所有権移転請求権保全の仮登記を了している事実並びに第一審原告はその後も右金員の回収に苦慮していたが遂に昭和三二年八月一九日付で本件建物に対し右抵当権に基く競売申立をなし同月二〇日付をもつて競売手続開始決定がなされるに至つたものである事実が認められ、また、当審証人川崎智徳の証言中には、第一審原告は第一審被告山本が競落人となつた事実を競落にあたつてはじめて知つた旨の、当審証人高柳道生の証言中には、競落に際し石橋勝一郎からの申入により第一審被告山本が高柳と同共して競落するに至つたものである旨の、各供述部分がみられるから、これらの各認定事実並びに供述部分を総合して判断すれば前記第一審原告等に有利な各供述部分だけから、少くとも第一審被告山本については、第一審原告と同被告との間に、第一審原告等の主張するような契約が成立した事実を認定することはできないし、訴外高柳道生については、同訴外人が第一審原告等主張の如き契約により本件建物の所有権(同人の持分二分の一について)を第一審原告に移転したものである事実を認定することはできない。甲第二ないし第五号証(高柳道生及び第一審被告山本の印鑑証明書及び白紙委任状)が第一審原告の手中に存することは、前示甲第一号証、乙第七号証と対比してみると、第一審被告山本及び訴外高柳が本件建物を競落したときの競落代金が第一審原告より借入れて支出したものでその債務を担保するため第一審原告において本件建物の競落人たる第一審被告山本及び訴外高柳の両名から印鑑証明書及び白紙委任状を受取つた事実を認定すべき資料ともなりうるから、右甲第二号証ないし第五号証の存在をもつてするも未だ第一審原告等の主張事実を認定するに足りず、他に右第一審原告等主張の第一審原告と第一審被告山本との間に本件建物の所有権を移転し移転登記手続をなす旨の契約の成立した事実並びに第一審原告が第一審被告山本及び訴外高柳から本件建物所有権の移転を受けてこれを取得した事実を認定すべき証拠はない。なお、仮りに高柳道生の権利に属していた二分の一の持分については、それが第一審原告との合意により競落後第一審原告に移転したとしても、その登記がないから第一審原告はその取得を第三者たる第一審被告山本解寿に対抗できないこと後記のとおりであるのみならず、そもそも高柳道生からその持分の譲渡を受け権利者となつたことを高柳道生に対してではなく第一審被告山本解寿に対する関係で確認すべき即時確定の法律上の利益あることは、とうてい認め難い。したがつて第一審被告山本に対し本件建物につき所有権確認及び契約に基く所有権移転登記手続を求める第一審原告等の請求は理由がない。

また、第一審原告等の第一審被告梁に対する請求は、第一審原告と第一審被告山本との間に成立した第一審被告山本が本件建物所有権を第一審原告に移転しかつその旨の所有権移転登記手続をなすべき旨の契約あることを前提となすものであるところ右契約成立の事実を認定するに足る証拠がないこと前記のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく第一審原告等の右請求は理由がない。

二、第一審原告等の第一審被告佐藤ミヨシ、同社団法人アメリカン、ソサエテーオブ、ジヤパン及び同町井久之に対する請求について。

これらの請求は、本件建物の所有権が競落後競落人山本解寿、高柳道生の両名より第一審原告に各持分の譲渡によつて移転し第一審原告の単独所有となり次いで参加人に承継されたことを前提とするものであるところ、第一審被告山本解寿より第一審原告に対するそのような持分譲渡の事実の認め難いことは前説示のとおりであり、また、本件建物の持分ないし建物自体につき、高柳道生より日本土地建物株式会社、落合義男を経て第一審被告佐藤ミヨシに至る第一審原告主張の各移転登記の存することは右当事者間に争なく、第一審原告等は右各登記はその登記原因たる契約が通謀虚偽表示によるものであるから無効であると主張するけれども、かような事実を確認することのできる証拠はなく、かえつてこれら各登記原因を成す契約がそれぞれの当事者の真意に基いてなされた有効なものであり、第一審被告等を第一審原告等主張のような不法行為者とは認め難いことは原判決理由中に詳細説示するとおりであるからその記載(原判決理由三枚目裏二行目より五枚目裏四行目まで)をここに引用する。従つて仮に高柳道生がその持分を第一審原告に譲渡した事実があるとしてもその登記が経由されていない以上第一審原告はその持分取得を右第一審被告等に対抗することができないものといわなければならない。従つて本件建物の所有権に基く第一審原告等の右第一審被告等に対する請求はいずれも理由がない。

三、結論

以上のとおりであるから、第一審原告の第一審被告佐藤ミヨシ、同社団法人アメリカン、ソサエテー、オブ、ジヤパン、同町井久之に対する各請求(当審において拡張した金員の請求を除く)は棄却すべきであり、原判決中これと同旨に出た右第一審被告三名に関する部分に相当であるから第一審原告の本件控訴を棄却すべく、また第一審原告が当審において拡張した右第一審被告三名に対する各金員の請求も棄却すべきであるが、第一審原告の第一審被告梁万基、同山本解寿に対する各請求は棄却すべきところ、原判決中これと異る右第一審被告両名に関する部分は失当であるからこれを取り消し、右各請求を棄却すべく、参加人の第一審被告佐藤ミヨシ、同社団法人アメリカン、ソサエテー、オブ、ジヤパン、同町井久之、同梁万基、同山本解寿に対する各請求も棄却すべきものとし、民事訴訟法第九五条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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